2010/03/04

説明できない多数決の危うさ


■3月3日放送の『みのもんた朝ズバッ!』での費用弁償の特集(下にアップ)は、かなり衝撃的だった。特に議会への交通費を上回る金額について、無感覚の議員の発言には、まさに知らないことは恐ろしいことだと思わずにはいられなかった■日本は法治国家であり、その立法は議会が担っている、(と言っても誰も信用しないだろう)実際は役人や官僚による行政が立法機能を運営している■その中にあって唯一といってもよいくらい、行政が“遠慮している分野”がある。それは議員自身にかかわる法律の分野である■“法律のプロである行政”が遠慮するとどうなるか。“立法の実戦経験の乏しい”議員たちが自分たちの法律を作るとどうなるか。もちろん“お手盛り”という身びいきが起こるのは当然として、それ以前に立法論もなく決めてしまうという暴挙がおこるのである■立法論とは別にむつかしいことではない。理屈が合うかという程度の論理性である。残念ながら議会というところは多数決で決めれば何でも正しい、という土着宗教のようなものが存在する。実はその宗教を広めたのは行政であり、役人である■長い間の自民党政権のもとで、政策立案とともに立法機能は行政・役人が、政治家は議会内での多数決に集中するように、分業体制が敷かれた。もちろん分業とは名ばかりで99パーセント行政が独占し、最後の1パーセントにも満たない出口部分だけを政治家にやらせようという魂胆である■しかし政治家側からすれば必ずしも悪い話ではない。なぜなら政治家からすれば面倒な仕事の99パーセントを行政がやってくれると思ってしまうからである■結果として、行政・役人の思惑通り、“政治家の宗教は多数決"、崇拝するのは多数派、ということになってしまった。要するに政策の中味についてはそれこそ分業体制だから行政にまかせっきり、ということである。分業体制とは相互不干渉ということである■そこで必然的に発生するのは、“行政・役人に絶対に損にならない政策"だらけということに■ 経済不況が20年も続くと、民間の生活水準が否応なく下がり続け、代わって露わになったのが公務員の厚遇ぶりである。それは法治国家にあって幾重にも法律に守られた鉄壁の身分保障というシステムである■政治が多数決に奔走しているウラで行政・役人は従順な下部のようなフリをして自らを守る法律を通させていたのである■公務員制度改革の本質はここにあるし、この公務員の“過剰包装"をなくしていくことが目的である■さて、ここからが本題であるが、ものごとを決めるのに多数決は合理的な手段である。しかし、その合理的な手段で決めたから、結論も合理的かといえば、必ずしもそうではないということである■現実に、昨今いくつかの所で多数決による政治決定が裁判所によって否定されているのである。多数決で決めても、その決めたことの合理性が説明できなければダメだ、といわれているのである■このことに多くの議会が無頓着である。特に公金の使途については合理的な説明が求められる■その最たるものが費用弁償なのである。それが冒頭の新聞記事である。前回にも書いたが、費用弁償については深い議論がされて来なかったという識者のコメントがある。議論無き多数決は通用しない時代に日本の地方政治もようやく突入したのである。ちなみに札幌高裁判決分の主な部分の写しを下にアップ。
1 費用弁償の趣旨
法203条3項は「第一項の者は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。」と定め、同条5項は「報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。」と規定している。
この趣旨は、普通地方公共団体の議会の議員等が職務を行うため費用を要した場合には、議員個人に負担させるのでほなく、最終的には公費で負担することとし、議員が費用の個人負担を憂慮することなく、職務遂行に専心することができるようにしたものであると解される。
したがって、費用弁償の対象となるのは職務を行うため要する費用に限られ、この実質を有しないものを費用弁償の対象とする条例は、法203条3項に反し、同条5項により条例に委任された範囲を逸脱するものである。
また、法203条は、「報酬」、「費用弁償」及び「期末手当」について定めたものであるから、その文言上、「費用弁償」は、「報酬」及び「期末手当」に含まれないものでなければならない。

以上のとおり、法203条の文言解釈により、費用弁償の対象は、費用性(職務を行うため要する費用に該当すること)を有し、かつ、報酬性(報酬又は期末手当に該当すること)を有しないものでなければならない。

2 費用弁償における裁量の範囲

条例で費用弁償について定める場合においては、議員が実際に費消した額を領収書等の提示を受けてから弁償する方式(以下「実額方式」という。)が上記の趣旨に最も適合するものである。しかし、実額方式によると、事務が煩瑣となり、費用弁償に当たる側の事務経費を増大させることになりかねないから、「あらかじめ費用弁償の支給事由を定め、それに該当するときには、実際に費消した額の多寡にかかわらず、標準的な実費である一定の額を支給することとする取扱いをすることも許されると解すべきであり、そして、この場合、いかなる事由を費用弁償の支給事由として定めるか、また、標準的な実費である一定の額をいくらとするかについては、費用弁償に関する条例を定める当該普通地方公共団体の議会の裁量判断にゆだねられていると解するのが相当である。」(最高裁判所平成2年12月21日第二小法廷判決・民衆44巻9号1 706貢)。

被控訴人のいう「定額方式Jによる費用弁償を条例で定める場合においては、
1.いかなる事由を費用弁償の支給事由として定めるか、
2.標準的な実費である一定の額をいくらとするか、
について普通地方公共団体の議会の裁量が認められることは上記のとおりであるが、この裁量は、法203条によって法が条例に委任した趣旨に反しない範囲で認められるものである。したがって、1の費用弁償の支給事由は、費用性を有し、かつ、報酬性を有しないものでなければならない。
また、2の標準的な実費である一定の額をいくらとするかの裁量は、最終的には、定額方式における「定額」自体の合理性に行き着くものではあるが、「定額」を算出する過程で、職務行うため要する費用として想定される額を合理的に見積もり、その見積額に基づいて定められたか否かが問われることになる。

立法者(条例においては普通地方公共団体の議会)は、ある立法の必要性・合理性を基礎づける事実、すなわち立法事実を説明する責任を負うと解されるから、本件条例についても、「標準的な実費である一定の額」が合理的に見積もられたものであることは訴訟告知を受けた札幌市議会の議員又は条例の執行に当たる札幌市長において、積極的に主張立証すべきことである。

以上によれば、定額方式による費用弁償は、1費用性を有し、かつ、報酬性を有しない支給事由に基づき、2弁償される「定額」が合理的であるときに、裁量の範囲にあるものであり、適法であることになる。

3 本件条例における費用弁償の合理性

本件条例2条は、「議員が、定例会、臨時会、常任委員会、議会運営委員会及び特別委員会の会議に出席したときは、費用弁償として日額12、500円を支給する。」と定め、本件条例附則11項は、「平成17年4月1日から平成23年5月1日までの間に定例会、臨時会、常任委員会、議会運営委員会及び特別委員会の会議に出席した議員に対して支給することとなる費用弁償の日額については、第2条の規定にかかわらず、10、000円とする。」と定めている。
この規定によれば、本件費用弁償は、議員が議会の会議に出席したときに支給されるものであるから、費用弁償の対象となるのは、議員が議会の会議に出席するという職務を行うために要する費用に限られ、費用性のあるものでも、会議への出席と関係のない費用(例えば、議員の個人事務所の維持経費)は含まれない。
被控析人は、本件費用弁償が交通費(タクシー代も含む。)、日当(費用弁償においては、 会議出席に要する経費その他出席に伴う雑費をいう。)、事務経費その他の札幌市議会議長が職務を行うために要する費用を法203条に基づいて包括的に支給するものであることから、具体的費用、項目を想定して定めたものではないし、実費の算定が困難なものもあると主張する。

(1)被控訴人の挙げる上記の例のうち、「交通費」については、議員が議会の会議に出席するという職務を行うために要する費用に該当し、費用性があることは認められる。しかし、被控訴人は、交通費の見積もりについて、タクシー代も含むと主張するばかりで、具体的見積額を明らかにしない。札幌市議会の議会開催地である札幌市中央区から最も遠い議員の住所までの交通費を、公共交通機関を用いた場合の料金、自家用車を用いた場合の燃料代などの条件で見積もることは 当審に係属してからでも可能であったほずであるが、何ら主張立証がない。なお、会議に出席するために、タクシーを用いる必要がある場合があることは否定されないが、常に必要であるとまではいえず、常にタクシー利用を前提として見積もりがされたとすれば、その見積りには合理性がない。

(2)−般に、「日当」の語は多義的であり、
1.休業補償を含む(例えば、民事訴訟において証人となった者に支払う日当(民事訴訟費用等に関する法律18条1項))こともあるし、
2.昼食代を含む(例えば、出張など本来の勤務場所と異なる場所で勤務させるときに支払われるもの(国家公務員の旅費に関する法律6条6項))こともあるし。
3.1日を単位として支払われる報酬の意味で用いられることもある。

しかし、議員が議会の会議に出席することは、本来の職務であって、何らかの休業を余儀なくされることではないから、1の意味での「日当」は、費用弁償の対象にすることができないし、監査委員も本件費用弁償が適法である理由の一つとして、「休業補償」を含まないことを挙げている(甲第2号証の2)。
また、議会開催地で行われる会議に出席するのは、議員が本来の勤務場所において勤務することにほかならないから、2の意味での「日当」も、費用弁償の対象にすることができない。さらに、議員は費用弁償のほかに、報酬及び期末手当を支給されているから、3の意味での「日当」も、費用弁償の対象にすることができないし、監査委員も「報酬としての意味を有する「日当」も含まれていない」と述べている(甲第2号証の2)。
したがって、被控訴人のいう「日当」は被控訴人が主張するとおり、「出席に伴う雑費」と同義であり、他の意味での「日当」は含まれない。

(3)被控訴人は、出席に伴う雑費という意味での「日当」及び「事務経費」について、例示を挙げることなく、様々な費用を含むと主張するにすぎない。
したがって、これらは、会議への出席に伴って生ずる交通費以外の費用をいうと解さざるを得ない。

なお、当裁判所は、平成20年9月12目の第1回口頭弁論期日において、被控訴人に対し、交通費以外の、議員の会議への出席に伴う雑費であるいわゆる「日当」及び「事務経費」の具体的内容を明白にするように求釈明し、被控訴人はこれに応じ、同年10月17日付け準備書面を提出したものの、求釈明に対する明確な回答は記載されていない。このことからすると、被控訴人は、議員の会議への出席に伴う交通費以外の雑費を具体的に観念することができていないのではないかとの疑問を払拭し得ない。

交通費は、特定性があり、かつ、費用性の明らかなものであるから、最も経済的な通常の経路及び方法により算定されたものである限り、費用弁償に上限は設けるべきではない。これに対し、交通費以外に、議員の会議への出席に伴って生ずる、具体的に特定されない種々の費用については、これが発生することが考えられなくはないが、特定性がないから、報酬性を帯びないものとするためには、合理的上限額を定めるべきであって、この額以下であるとき初めて適法であると解される。

国家公務員の旅費に関する法律6条6項の「日当」は、旅行中の昼食代を含む種々の費用に充てられるものと解されるが、その額は同法別表第一の一に定められており、「指定職の職務にある者」の日額が3000円とされている。これと比較するならば、議会が本来の勤務場所である札幌市議会議員にとって会議に出席するときの「日当」は、 上記の3000円から昼食代相当額を控除した額が合理的上限額である。

また、札幌市内各地から札幌市議会の会議に出席するための交通費を、公共交通機関による交通費をもとに算定すると、豊平峡温泉などの特に遠隔地からの場合(往復千数百円)を除き、市内各地から議会開催地である札幌市中央区まで往復約1000円以内の場合がほとんどであることは、裁判所に顕著である。

したがって、交通費及びこれ以外の、議員の会議への出席に伴う雑費であるいわゆる「日当」及び「事務経費」を費用弁償の支給事由とし、一律の日額として定めるときは、上記事情を考慮して算出される額が合理的上限額であるということができる。

(4)以上によれば、被控訴人の主張する費用弁償の支給事由のうち、具体的に特定される支給事由は交通費のみであり、議員の会議への出席に伴う雑費であるいわゆる「日当」及び「事務経費」を加算したとしても、日額1万円は、議員の会議出席に要する費用の3倍程度に当たることは明らかである。

(5)被控訴人は、原判決書別紙4の「各政令指定都市における費用弁償額」にあるとおり、他の都市における支給額の定めなどを考慮すると、日額1万円が不相当に高額とまでいえず、本件条例2条及び同条例附則11項に規定された費用弁償の支給事由及び額が法203条により札幌市議会に与えられた裁量権の範囲を超え、又はそれを濫用したものであることを認めるに足りる事情はうかがわれないと主張する。
原判決書別紙4の「各政令指定都市における費用弁償額」は「住民監査請求監査結果」(甲第2号証の2)4頁の表と同一であるところ、この表によれば、監査結果が出された平成19年7月25日現在で、政令指定都市における費用弁償の定め方は、札幌市と同じく、一律日額1万円としている都市が4市(仙台市、名古屋市、京都市、福岡市)ある一方全く支給しないこととしている都市が5市(さいたま市、横浜市、浜松市、大阪市、堺市)、公共交通費の実費を支給することとしている都市が1市(静岡市)、距離に応じて−定の幅で支給することとしている都市が2市(神戸市、北九州市)あることが認められる。したがって、政令指定都市において、費用弁償として一律の日額を定めるのは、上記の表の都市全体の半分にすぎず、必ずしも主流とはいえないし、都市の面積や人口によって一定の傾向が認められるものでもない。実費方式(静岡市)など−律日額以外の定め方をしている都市の実情を調査したが、札幌市においては採用することができない事情があったのであればともかく(被控訴人からそのような事情の主張立証はない。)単に一律の日額として定めた額が他の政令指定都市における費用弁償と横並びであることだけでは、合理性を基礎づけることはできない。

(6)以上のとおり検討したところからすれば、本件費用弁償は、交通費及び出席に伴う雑費の弁償を行う限度では合理的裁量の範囲内にあるが、これを超える部分は。裁量権の範囲を超え、又は裁量権を濫用したものである。

本件費用弁償は、上記のとおり、一部に違法な部分を含むものであるが、費用弁償の具体的金額は、本来、条例によって定められるべきものである。
本件費用弁償の額は、必要と見込まれる費用額の3倍程度の日額が一律に支給されたものであるから、被控訴人においては、全体が違法な支出として、本件費用弁償を受けた者に対し、ひとまず全額を返還するよう請求すべきである。

4 結論

以上によれば、平成18年6月から同19年5月までの費用弁償額についての控訴人の請求は、理由がある。よって。これと異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

札幌高等裁判所第2民事部