2014/05/01

「情報公開と区民参加」が聞いて呆れる「情報隠蔽と自分参加」




 勘違い区長のワガママが、また明らかになった。突然、ゴールデンウィークの真っ最中に、教育委員会のオランダ視察に同行すると言い出したのである。しかもその教育委員会のオランダ視察そのものが本当に必要なのか“怪しい旅”なのである。さらにこの区長を含む視察費は計7人で685万円の予算が議会に内緒でこっそり教職員研修費の中にしのばせてあったという“事件”。


 上記は世田谷区の今年度予算に355ページ。教育指導関係運営費の中の教職員研修(教育委員会事務局)2742万4千円の中にオランダ視察の費用685万円が入っていたと区側は説明。通常この教職員研修は区立小中学校の教員の様々な国内研修に使われる。たった7人で教員研修費の4分の1を占めているとは“異常”。


 区の説明では、教育長が区長に“お声掛け”したところ区長も同行することになったということである。しかしその説明はヘンである。

 まず第一に税金を使って行われる視察というものが教育長が区長に声をかけて「ハイ行きます」と簡単に決まるようなものではない。区長の今回の費用は約100万円であり、税金で行く以上、目的や成果等が明らかでなければ使えないハズ。もし区の説明が事実なら、少なくとも教育長は自分のカネで行くような錯覚をしていたと言わざるを得ない。公務員として失格であろう。

 さらにヘンなのは、教育長が誘って区長が行くことになったというのは不自然ではないだろうか。区長が行くとなれば日程は区長優先となるから、この視察は最初から区長の日程にあわせて作られたものであり、予算の編成過程を考えれば昨年12月の段階でゴールデンウィークに行くことは決まっていたということになる。

 区の説明は違うのではないか。やはり区長が強烈にオランダに税金で行きたい、という強い動機が最初にあり、それに教育長が協力したか、協力させられたか、というのが真実だろう。

 教育長は本来なら前職である会計管理者というポストで定年を迎えるところを保坂区長が教育長に引っ張ってくれた恩義がある。故にもし区長から要請があれば断れなかったのかも知れない。会計管理者というのは世田谷区の使った税金の領収書をチェックする責任者である。しかしそのような立場だった人間が「お声掛け」するだろうか?

 
 保坂区長は今回の視察に参加する理由として「区立学校の環境整備は区長の仕事」と述べている。それは予算を最終的に作り上げる責任者とすれば、そうかもしれない。しかし実際には区立学校の環境整備は教育長が行っている。もし区長が教育長の仕事をするとなれば“二重行政”となる。区長のこの発言を認めれば教育長などいらなくなる。

 今回の視察も教育長じゃ力不足だから区長が同行するように見える。そんなことをプライドが高い教育長がするだろうか。これでは中国攻めのトップの藤吉郎が信長様のご出馬を仰ぐようなものだが・・・。


 世田谷区には「世田谷区職員海外派遣研修実施要綱」というものがある。無秩序に“情実で”簡単に海外視察に行けるようにはなっていない。公費を使って研修に派遣する以上、研修の成果が区に還元できるように、派遣する人員はおおむね45歳前後のいわゆるこれからベテランの域に達する世代ということになっている。定年前の人間に研修しても時間的に区に成果を還元できないからである。当たり前のことである。そのことからすれば、そもそも教育長や区長が行くこと自体が要綱の主旨に背いていると言える。ただし要綱にはちゃっかり、区長の特命を受けた者、とあるからどうにでもなると言えば言えるのだが。しかし今回のようなことを想定して入れた文言ではないだろう。区長が区長に特命するのか??

 そもそも今回の視察はどうして「発生」したのだろうか。
 経緯は伝えられている範囲では、昨年、10月14日世田谷区立二子玉川小学校で行われた家庭教育学級というPTA主催の講演会が発端だという。「世界で一番子供が幸せな国オランダの小学校に学ぼう」というリヒテルズ直子氏講演に教育長が感動し、親交が始まったという。リヒテルズ直子氏はオランダ人と結婚しオランダ在住で、年に何回か日本で「イエナプラン教育」の講演をする等、また「日本イエナプラン教育協会」の代表を務めている活動家である。「日本イエナプラン教育協会」のホームページはこちら。

 ホームページには「ドイツで始まりオランダで広がった学校教育を、一緒に日本で広めてみませんか?」とあり、この協会ではオランダでの研修視察事業を請負っている。ちなみにこの協会は世田谷区代田6−3−22にあり2010年10月11日に設立されている。一体、イエナプランとか「日本イエナプラン教育協会」或いはリヒテルス直子氏とはどういう人物なのか。少なくとも今回の件が明るみに出るまで、文教委員会やその他本会議、予算・決算委員会を通じて、イエナプランも、またオランダの教育について話題にすら上ったことはない。というか教育委員会の中でもまともに取り上げられた形跡はない。実は・・・


 1月24日に滋賀県大津市で行われた第63次教育研究全国集会で、子供の権利について講演をしている。もちろんリヒテルズ直子氏が日教組だと言っているのではなく、どちらかと言えば日教組に担がれているというのが実態だろう。
 しかし当人に政治的カラーという意識がなかろうと、日教組御用達の人物となると世田谷区の教育長が安易に近づいて良いのだろうか。


 リヒテルズ直子氏の著作は幾つかあるが現状ではなかなか入手不可となっている。唯一手に入るのはキンドル版の「オランダの個別教育はなぜ成功したのか」(2006年版)で読んでみた。

 確かに素晴らしいように見える。しかし、日本の教育事情をステレオタイプに見ている点、また日本の教育における塾の役割の無視、そして何よりも教師のレベルの高さと保護者の献身が前提となっているのがイエナプランの本質であることがわかる。つまり仮に日本でイエナプランを具体化するにしても教員養成過程から根本的に見直さなければ、話にならない。しかもそこで求められるのは何でもできる、教師がわからないことも含めて正直に生徒と対等に向き合う能力というからハイレベルである。
 そんな教師がいれば別にイエナプランでなくとも日本の教育は進んでいるはずである。例えばオランダでは小学校でも留年がある。このこと一つをとっても日本の教育制度とずいぶんと違うことがわかる。この留年ということと日本の引きこもりを同様に見ていいのか、さらにオランダはかつての植民地からの移民を受け入れて日本とはあまりにも異なる国情である。そもそも教育に関する憲法の位置づけが違いすぎ。確かに「管理教育から自由化へ」ではなく「画一から個別へ」という部分は共鳴する部分もあるが、日本人は画一が好きな人もあまたいる人種でもある。
 そもそも「世界で一番子供が幸せな国」というセールストークに何の疑いもなく飛びつくこと自体が画一的な証拠ではないだろうか。幸せの定義などどこにもあるはずがない。少なくともこの言葉自体に他国との比較によって成立していることで矛盾ではないだろうか。


 著作を読んでいて、ひとつ気づいたことがあった。それは保坂区長の日頃の言動とリヒテルズ直子氏の主張がまるで勉強会をしたかのようにピタッと一致する点である。

 上述したように、区の説明では、リヒテルズ直子氏との接点は教育長というように語られているが、事実は異なる。

 2012年10月14日に中央大学駿河台記念会館で保坂区長とリヒテルズ直子氏はパネルデイスカッションを行っている。

 さらに2013年4月20日に成城ホールでリヒテルズ直子氏とともに保坂区長はシンポジウムを開催している。

 これらの事実からすれば、教育長が接点をもったのは2013年10月16日の二子玉川小の家庭教育学級だから、その1年も前から少なくとも保坂区長とリヒテルズ直子氏は知り合いだったということになる。(実はリヒテルズ直子氏を支える出版社から保坂区長が自伝を今春出すということになって編集者の言動からすれば二人は旧知の仲であったことがうかがわれる。保坂区長は記者会見でも今回の視察が旧知の仲であるリヒテルズ直子氏のコーディネイト(業務委託)であることは隠している。


 上述したように「日本イエナプラン教育協会」はオランダにおけるイエナプラン教育の現地視察の委託業務を請け負っている。今回の視察もその一環である。保坂区長とすれば理論的ネタ元ともいえる「日本イエナプラン教育協会」の世田谷区の教育への繋ぎは重要なミッションなのかも知れない。(そのために教育者でもあった前教育長をクビにし、教育界に素人の現教育長を据えたのかもしれない。前教育長なら政治色のある保坂グループの人物に視察など絶対に依頼しなかったろう。)
 しかし日教組も担ぎ上げるイエナプランを果たして世田谷の公教育に繋げることに問題はないのだろうか、検証は必要である。しかも今回の委託により「日本イエナプラン教育協会」はそれなりの利益を受ける。公金による利益のほか世田谷区の教育長と区長が公式に(公金を使う以上公的視察となる)日教組も絶賛するオランダ教育を認めたという“評判”はおカネに代えがたい価値を発生させる。
 日教組はおそらく“公教育の分断”ということでイエナプランを持ち上げているのだろう。
 簡単に言えば、区長の知り合いへの便宜供与を世田谷区としてはかなり無理な形で行ったように見えるのである。