2009/12/01

政権のDNA

●怖い話である(11月28日毎日新聞「近聞遠見」)●今から四十年近く昔のこととは言え、今はなき社会党のスター政治家が、政権の中枢にいた田中角栄大臣から、何と大臣室で現金を受け取っていたという話だ●こう書くとナマナマしいが、その手際の良さがいかにも“角さん”らしいと書かれては、まるで世話物を見せられているようだ●「カネはあって邪魔にならんよ」その一言で受け取ってしまった。額は百万円。現在にすれば五百万くらいになるだろうか●スター政治家のフトコロ事情には触れていないが、常識的にみてかなり苦しかったのではなかろうか●そうでなくては、いくら昔の時代感覚といっても「邪魔にならない」という理由だけで貰うだろうか●結局この話は、田中角栄という不世出の金権政治家の「人の弱みにつけ込んで」政治を動かすテクニックの一端を示している●もっとも「つけ込んで」いることを、感じさせないのが神業であろうが●その後スター政治家は反戦平和で名を馳せたが、金権政治にはジャーナリスト出身議員としては触れなかった●発信力のあるテレビ出身議員への“口止め料”とすれば田中角栄氏にとっては“安かった”のかも知れない●そして現在、その角栄氏の“愛弟子”が政治の中心にいる。さすがに金権政治は御法度の時代である。しかしながら、新人議員には“落選の恐怖”を、中堅議員には“政権ポスト”をチラつかせながら統率するのは、有権者からは気分の良いことではない。ましてや議員立法や質問を制約したり、請願の紹介を自粛させたりと、選挙に勝ったらまるでやりたい放題の観がある●それもこれも選挙大勝の原動力が小沢一郎氏だったからであるが、彼の選挙手法は何か。見るところ、“師匠”と同じコトを国民相手にしようとした、としか思えない●大臣室で国会議員に現金を渡すのは金権政治そのものである。しかし選挙を通じて国民に現金を渡す公約を掲げるのは何?政治というのだろうか●子ども手当、農家の戸別所得補償、高速道路無料化。困っている人からすれば喉から手が出るほど、であろうし、余裕のある人でさえ「カネはあって邪魔にならんよ」ということであろう。そのことからすれば「コンクリートのバラマキから人へのバラマキ」というのは至言である●さらに国政問題を地方自治の問題に置き替えた選挙戦略は、有権者の生活実感に沿ったものでわかりやすかった、反面、本来の国政のテーマである経済・外交・安全保障の問題を有権者の視界から遮ったのも事実である●要するに地方政治のテーマを国政選挙でやって大勝したということである●大勝した結果、何事か大きな改革をやるには一党独裁的な、つまり昔の「一致団結箱弁当」のような体制がやりやすいと考えるのはあまりにも短絡的である。改革を仮に終えても独裁体制は残り続けるのが歴史の通例である。それどころか改革ができない理由を隠すためにモンスター化することのほうが多い●だから独裁は悪であり、独裁体制への方向は許してはならない。かと言って自民党がああではね。まことに怖い話である。